2025年8月7-10日,中国に行ってきました。上海の近郊,江蘇省江陰(ジャンイン)市には本年4月に続いて2度目の訪問です。日本人には馴染みのない地名だと思いますが,揚子江に面した都市で,人口は約178万人,それなりに大きな街です。その地の中核病院である「江陰市人民病院」に行ってきました。前回は研究会のみでしたが,今回は手術のデモンストレーションです。
コロナ前にも中国のいくつかの病院で出張手術を行いましたが,今回も「外国人医師短期診療許可証」という一時的なライセンスを発行してもらっての手術です。もちろんいつ何時も手術は成功裡に終わらせるつもりですが,昨今の日中関係を考えると正式な手続きは必須です。大した書類は必要ありませんでしたが,公証役場で私の医師免許証を公証してもらうなど,慣れない事務手続きが必要でした。今回は,この病院限定で1年の期間に限ったライセンスです。
4月の訪問時には上海の浦東(プードン)国際空港を利用しましたが,江陰まで車で3時間もかかり腰痛が悪化したので,今回は少し西にある無錫(ムシャク)空港を利用しました。小さな空港ですが関空から直行便もあり便利です。空港には,今回通訳としてアテンドしてくれる予定の北京大学5年生の 曲 倍誼(まがり ぺに)さんが迎えにきてくれました.日本生まれですが,ご両親が中国出身の方で,アメリカの大学を卒業後,北京大学医学部に進学されているトリリンガルの素敵な女性でした。

江陰市人民病院 北京大学5年生の曲 倍誼(まがり ぺに)さんと記念撮影
中国に入った翌日は朝から手術の打ち合わせを行い手術です。数日前に症例についてZoomを用いての打ち合わせがあり,どんな症例かは大体わかっていたのですが,内視鏡画像を直接確かめたり,より細かい打ち合わせです。1例目は75歳の女性で,胃体上部の早期癌の症例です.胃の上の方に癌がある場合,胃全摘あるいは噴門側胃切除が行われることが多いのですが,上部の胃を少しだけ残して行う胃亜全摘術が術後の患者QOLを考慮すると一番良いのではと考え,行うことになりました。直腸癌の手術既往があったりと困難も予想されましたが,昼過ぎに無事手術(腹腔鏡下胃亜全摘術)を終えることができました。中国ではこの様な術式を選択することは少ないようで,大変勉強になったとのこと,まずは1つ目の大役を無事終えることができ一安心です。

江陰市人民病院での手術(腹腔鏡下胃亜全摘術)風景 向かって右端が術者の私
昼食をとり,午後には2例目の手術です.62歳の男性で,胃の出口付近の大きな進行癌です.腹腔鏡で観察すると,残念ながら腹膜播種を認めました。根治手術は不可能との判断で,バイパス術(腹腔鏡下胃空腸吻合)を行いました。ここでも,われわれが通常行っている胃を不完全離断する方法を披露しました。中国では胃を離断せずに行う方法が主で,術後あまり食事がとれないことが多いとのことで,これについても大変勉強になったと感謝されました。
海外で手術をするのは,慣れないスタッフとのやりとりや,道具が揃わないなど,大変な面も多いのですが,やはり直接見せて説明できるとその意味合いや具体的なやり方が伝わりやすく,単なる研究会よりも良い点が多いのも事実です。また,直接顔をみて,その理解の度合いも想像できるし,本気で学ぼうとする意欲もダイレクトに伝わってきます。

外科病棟での記念撮影
次の日は,揚中市人民病院で研究会です。同じ江蘇省にある揚中(ヤンジョン)市は,市全体が揚子江の中洲で,家電品の生産拠点とのことです.もちろん聞いたことのない街でしたが,中国にはわれわれ日本人の知らない都市が多数あり,しかもそれらがすべて大きく,近代的なビルが乱立しています。やはり発展著しい大きな国です。

揚中市人民病院
揚中市人民医院はこの地区の中核病院で,大学の教育病院である以外に独自の研究所も備え,また,この地区のデータベース事業も行っているとのことでした。研究会はほぼ丸一日かけて行われ,私は「腹腔鏡下胃全摘」についての発表を行いましたが,いたる場面で,「日本ではどのようにしている?」と質問攻めで,持参していた日本の「胃癌治療ガイドライン」の本を,最後には院長に贈呈してきました。地方とは言え,中国の先生方の胃癌治療について最新の動向を知ろうとする意欲には,素直に頭の下がる思いでした。

研究会の様子
研究会の後には,盛大に歓迎会を催していただき,多くの先生方と親交を深めました。今回の訪問は中日友好病院の姚(ヤオ)先生の企画によるものです。私より少しお若い先生ですが,若い時に日本に留学されていたとのことで,日本の医療技術を中国に広めたいとの思いで,この様な会を多く手がけておられます。何度かお会いするうちに意気に感じ,今回は手術を披露することになってしまいました。お会いするたびに「金谷先生,中国に先生の弟子を100人作りましょう!先生の手術や考え方を広めましょう!」と言ってくださいます。この歳になって求められるのは本当に光栄なことです。今後もワクワクする思いを期待しつつ,できる範囲で協力させていただこうと思っています。