今回、兵庫県西宮市から講演依頼をいただき、国境なき医師団のスーダンでの派遣活動について講演させて頂きました。
国境なき医師団(Médecins Sans Frontières=MSF)とは、1971年にフランスで医師とジャーナリストによって設立された国際NGOであり、緊急医療援助及び証言活動を使命とする団体です。当科には国境なき医師団の活動に参加4している外科医が3名所属しており、私はそのうちの1名になります。
私は昨年の12月から3ヶ月間、内戦中の北東アフリカの国・スーダンへと派遣されました。スーダンは2019年に30年以上続いた独裁政権がクーデターによって倒され、民主化に向かっておりましたが、2023年よりRSFと呼ばれる準軍事組織と、スーダン国軍との間で、主導権を争う内戦が始まりました。内戦は泥沼化し一向に収束の目処が立っておらず、開始以降で国内外含めて1200万人を超える難民が発生しております(2025年現在) 。非常に 甚大な人道危機であるにも関わらず、ガザやウクライナ等と比べて報道が余りにも少ないことを、MSFは懸念しています。(以下、MSF作成の動画になります)
今回の派遣が初回であり、まだまだMSFの外科医としてはビギナーではありますが、 スーダン危機についてもっと関心を持ってもらいたいという想いもあり、今回2025年8月19日に行われた西宮市及び西宮市教育委員会主催の「令和7年度 平和と人権・テーマスタディ国境なき医師団の立場から考える」というイベントに登壇させて頂きました。約80名の方々を相手に、スーダンにおける自身の体験を中心にお話しさせて頂きました。私はスーダンの中でもRSFが実効支配をしているダルフール地方に入り、現地のドクター達と共に銃創等の外傷症例や緊急の帝王切開等に対応しました。如何にしてRSFが支配するダルフール地方に入って行ったか、どの様な環境でどんな症例と向き合うこととなったか、現地ではどんな壁にぶつかったのか、そして今後どうしていこうと考えているのか等を赤裸々に語らせて頂きました。
お話をさせて頂く過程で、改めて本当に多くの方々のお陰で私はあの場で医療行為を行うことができたのだな、と感じました。寄付をして下さっている方々、人や物資を現地に送り届けるマネジメントをしてくれたMSFのスタッフ達、共に現地で診療にあたったMSF及び現地の医療スタッフ達等、挙げていけば枚挙に遑がありません。
またそれと同時に、今後も引き続き自分自身にできることを続けていこうと、決意を新たにした次第です。南米の民話に「ハチドリの一雫」というものがあります。大きな山火事に対し、せっせとその小さな嘴で水を運び消火しようとする一匹のハチドリを、周囲のものは「意味がないことをやっている」と揶揄します。それに対し、クリキンディという名のそのハチドリは「私は、私にできることをやっているだけ」と答えます。今後も自分なりの「一雫」を、継続していこうと思います。
具体的には、先ず1点目。MSFの外科医としての活動を継続していくことです。来月9月上旬にドイツで行われるMSFの外科のトレーニングに、参加させて頂けることとなっております。日々の診療に加えてそういった機会を活かし、自身の能力を高めて次の派遣に備えていくつもりです。2点目はこの記事も含めてですが、こういった活動について発信を続けることです。私個人としてはあまり積極的に人前に出てということを好むタイプでないのですが、MSFが医療活動と同じく重きを置いている証言活動にも可能な限り協力する、これもまた現地で活動をさせて頂いたものの役割だと捉える様になりました。今回の様な講演会に加えて、学会等でも今後は積極的に発信をしていければと考えております。
最後になりましたが、今回この様な機会を下さった西宮市・西宮市教育委員会・国境なき医師団日本事務局をはじめとする皆様に、心より感謝申し上げます。
動画・写真提供:国境なき医師団