2025年9月 金谷顧問の訪中記 その2

2025926-30日の日程で,中国遼寧省朝陽(チャオヤン)市と北京に行ってきました.今回も中日友好病院の姚力先生のお誘いです。

まずは遼寧省朝陽市,またしても日本人には馴染みのない街で,北京から約400km北東に位置し,北京からは中国版の新幹線(高鉄)で移動しました。高鉄には今までにも何度か乗ったことがありますが,以前は乗客の話し声が騒がしく,結構ざわざわしていた印象でしたが,今回はその様なこともなく,ほぼ日本の新幹線と同じ環境でのスムーズな移動でした.こんなところにも,中国が少しずつ変わってきていることを実感します。

朝陽は人口336万とそれなりの都会で,化石の街として有名だそうです。手術の後「恐竜博物館」に案内されましたが,鳥は恐竜から進化したと証明されたとのことで,最初の「鳥」だとする化石も展示されていました。私には初耳のことばかりで,もっと教養を深めなければと痛感です。

朝陽で訪問したのは朝陽市第二病院で,ベッド数1200の大きな病院です。A級三次総合病院ですが,中国にはいたるところにこのような大病院があります。本当は私に手術をさせたかったようですが,今回は免許の手続きが間に合わず,講演と手術の指導でした。

現地の先生が手術をしている横で,いろいろと言ってみるのですが,日本ではあたりまえの手術のコンセプトからの説明が必要で,いきなりの実践での指導は正直難しかったです。

翌日は移動日で,ゆっくりと北京に向かいました。今回の旅も北京大学の学生さんがアテンドしてくれました。今回担当してくれたのは北京大学医学部5年生の村上遠香さんで,前回アテンドしてくれた曲さんの友達です。お父さんの仕事の関係で北京で生まれ東京育ち,生まれ故郷の北京に興味があり留学したとのこと。外科のことはほとんど何もわからないまま半ば強制的に参加させられたようですが,実は結構外科向きの元気で素敵な人でした。いつものことですが,異国の地で頑張る若者を見るとそれだけで刺激になるし,応援したくなります。

北京では中日友好病院に行き手術を行いました。日本の無償資金協力により建設され1984年に開院となった1700床の病院です。特に呼吸器外科は有名で,移植を盛んに行うなど,中国一の症例数/レベルとのことです。

病院では手術の前の朝一番に驚かされました。手術室の一角で準備が整うのを待っていると,(今回とは違う他の)患者の家族という女性が登場し,ご主人の手術をお願いしたいとのこと。日本では懐かしいCT他のフィルムを持参されていました。他院で術前化学療法中とのこと。姚先生が仕組んだことでしょうが,中国では,臨床の現場に,患者さんや家族が訪れることが多く,日本とはかなり違った環境です。

この日私が行った手術は,胃癌に対する腹腔鏡下幽門側胃切除で,そんなに難しくはないものでした。なんでそんな手術を私に依頼されたのかよくわかりませんでしたが,どうもVIPだったようです。医療の現場での日本の威光は未だ多少はあるようで,日本の医師による手術はやはり丁寧で正確と評価されているようです。

後日,術後の経過は良好との報告を受けており,海外での手術はストレスも多いのですが,喜んでもらえると,頑張った甲斐があり素直に嬉しいです。

今回の旅では,飛行機に乗る時から帰ってくるまで,ほとんど日本人を見かけませんでした。今年は中国の戦勝80年とのことで,抗日の映画が大ヒットするなど反日の報道が目立ちます。その影響もあってでしょうが,日本人は中国に行かないようです。また,日本人だけでなく他の外国人もあまり見かけませんでした。米中関係が悪化するなど世界情勢が影響しているのでしょうが,一方で,それに反して街は一見平和で,空気も綺麗でした。中国は日本から近く,また医療の面でも症例が多くいろいろと協力しあえるはずの国です。もっと気軽に行き来できる環境になって欲しいものです。