2026年4月 金谷顧問の訪中記 その5

4月の19日から21日にかけて,昨年の11月以来5ヶ月ぶりに中国に行ってきました.今回は山東省淄博(ズーボー)市博山(ボーシャン)区というところです.今回も初めての場所です.山東省と言えば日本人には青島(チンタオ)が有名ですが,実は省都は済南(ジーナン)というところで,今回訪れた博山は済南から車で1時間程度のところでした.関西空港からは直行便が毎日2往復あり,比較的便利な場所でした.

今回の訪問したのは「博山区中医病院」で,約360床の中規模病院です.名前からもわかる通り,中医つまり中国伝統医学を特色とした病院で,西洋医学としては整形外科を主としていたものの,数年前からは腫瘍外科にも力を入れ始めたとのことでした.

訪問に先立ってWEB会議が行われ,2つの病院から計4症例の相談があったのですが,今回はその内の1例の手術を行うための訪問です.

 

67歳の男性で,胃出口付近の進行胃癌.周囲のリンパ節に転移があり,術前化学療法を3コース行って縮小しているとのことでした.CTでは十二指腸への癌の浸潤がありそうですが,内視鏡画像の提示は写真の2枚で,詳細は不明でした.中国では内視鏡画像のフォーマットが統一されていないのか,電子カルテで全てを見ることができず,外科医は所見用紙の結果のみで手術に臨むことが多い様です.

 

そんなこんなで,無理を言って,術前に内視鏡室に出向いて手術症例の内視鏡画像をすべて見せてもらいました.ただし,私の知りたい十二指腸浸潤に関する情報はなく,結局は手術してみないとわからない状況でした.ついでながら,他の症例の相談もありました.進行した症例が多く,治療方針に悩むことが多い様です.

手術は腹腔鏡下幽門側胃切除を行いました.胃外科医としてはありふれた手術ですが,転移リンパ節の十二指腸への浸潤が疑われ,切除はぎりぎりでした.いつものことですが,アウェーでの手術は緊張します.

手術の後は,病院の幹部や外科のメンバーとの懇談会です.顔合わせといった感じでしたが,孫院長(整形外科の女医)からは,病院の現状や今後の癌診療に対する展望等を聞かせてもらいました.中国は広いためか,医療体制の整備には地域差があるようで,特に地方においては最新の医療の提供に困難を伴うことが多いとのことでした.

なお,この時驚いたのが,以前から相談されていた胸部食道癌の患者さんがご家族と共にその場に来られていたことです.奥様とは以前に北京でお会し,ご主人の手術を依頼されました(訪中記 その2に登場).確か福建省の方ですので,遠路はるばるです.現在,術前化学療法中ですが,頸部食道に壁内転移があることがわかり,直径1mm程度の血管の吻合を行う小腸での再建が必要なため,中国での手術をあきらめ八尾での手術を予定している患者さんです.

日本での手術が必要になった経緯を含め,手術や術後合併症等について,この後ホテルで詳しく説明しました.自費での来日+手術ですし,かなり大きな手術なので,その件について納得なしでの手術はないだろうと,私としては当たり前の説明だったのですが,中国では手術に関しそのように詳しく説明することはないようで,みんなびっくりしていました.こちらは中国のそんな現状にびっくりなんですが,私の若い頃は日本でもそんな感じだったようにも思います.こんなところにも時代の流れを感じます.

夜は,現地の食事をご馳走していただきました.山東省の淄博市はコロナ開けの時期にバーベキューで有名になったところで,日本でもテレビのニュースで報道されました.私もこの報道は見たことがあり,どんなものかと思っていたのですが,ピリ辛のスパイスが効いたおいしいバーベキューでした.

今回は人口40万程度の小規模な地方都市への訪問でした.40万と行っても日本だと県庁所在地レベルの街です.ただ,中国では地域による医療格差が深刻な様で,病院関係者はみんなやる気はあってもどうしたら良いのか,どうしたら最新最善の医療を提供できるのか,人材と学ぶ機会を欲していると実感しました.日本にいるわれわれには関係のないことかも知れませんが,こうして関わりを持った以上,はたして何ができるのか,すべきなのか,を考えさせられる訪中でした.