2026年9月 中国からの患者さんの食道癌手術が無事終了しました

訪中記2と5で登場した中国の食道癌の患者さんの手術が無事終了しました.

昨年,北京で食道癌と診断され,その後,化学療法が施行され中国での手術を依頼されましたが,食道の入り口近くの場所に壁内転移があるため日本での手術が必要と判断,当院にまで出向いてくれました.自身の仕事の都合と医療用ビザがなかなか下りないため,来日が延ばし延ばしになっていました.食道癌の手術では,術後すんなり経過すれば2週間程度で退院も可能ですが,ちょっとした合併症が起きただけでも退院が遅くなってしまいます.しかも退院後は中国ですので,観光ビザではなく,90日の滞在が認められる医療滞在ビザを申請してもらった次第です.

 

9月12日に奥様,息子さんとともに来日,病院近くの民泊に入り9月14日に入院,術前の最終チェックとして各種検査を行いました.胸の中央付近にできた食道癌本体と頚部の入り口近くの食道壁内への転移,それといくつかのリンパ節転移は術前化学療法が効いて小さくなっていましたが,新たに別の場所のリンパ節に転移が認められました.新たな病変も含めて全てを取り切れると診断しましたが,もしこれ以上来日が遅れていたら切除不可能となっていたかも知れません.

 

手術は9月17日に施行しました.ロボットを用いた食道切除に頸部・胸部・腹部にわたる3領域リンパ節郭清と胃管作成,再建は細くした胃を頚部まで持ち上げ,入り口直下の食道との間に小腸を移植(遊離空腸)しました.持ち上げた小腸の血管は頚部の血管に吻合するのですが,これは形成外科のチームにお願いしました.直径1mm程度の血管を髪の毛よりも細い糸で縫い合わせる手技が必要ですが,綾部形成外科部長が顕微鏡を用いて丁寧につないでくれました.感謝です.私が八尾に移ってから一番大きな手術で,長時間を要しましたが,外科のメンバーはもちろん看護師や臨床工学技士など,みなさんのおかげで無事に終えることができました.

 

術後は,軽度の右反回神経麻痺を認めましたが,食事を開始しても誤嚥(むせること)はなく,おおむね経過は良好でした.八尾徳洲会総合病院は「外国人患者受け入れ医療機関認証制度(JMIP: Japan Medical Service Accreditation for International Patients)」の認証を受けており,外国人患者の受け入れ体制は整っていますが,病棟やICUの看護師さんは中国語しか話せない患者さんや家族とのやりとりに大変だったと思います.患者さんからは当院のスタッフは中国に比べすごく優しく優秀と好評でした.また,国際医療支援室に所属する中国人スタッフの劉さんには本当にお世話になりました.貴州省出身で留学をきっかけに日本で働いているそうで,難しい医療に関する通訳も難なくこなしてくれました.

 

患者さんの自宅は福建省の福州で,北京にも家があり,術前の化学療法は北京の中日友好病院で処方してもらった薬を各地の病院に持ち込み点滴してもらっていたとのことでした.中国での医療の仕組みはこのように日本とは違うようですが,術後は自宅近くの病院でフォローしてほしいとの希望があり,知り合いの福建省腫瘤病院の柳硕岩先生にお願いすることになりました.福建省腫瘤病院には2017年に訪問したことがあり,手術も見学させてもらいました.連絡をとると,食道癌の名手でありながら,今回日本で手術を受けたにもかかわらず術後のフォローを快く引き受けてくれました.柳先生には本当に頭の下がる思いです.患者さんもすごく喜んでくれました.20年近く中国と行き来し築いてきたネットワークがひょんなことから役に立ち,私としてもうれしい限りです.

 

 

10月8日無事退院を迎えました.10月11日に帰国とのことです.苦労して取得した医療用ビザは30日だったとのことでぎりぎりでした.今後,無事通常の日常生活に戻れるか,再発しないか,心配のタネは尽きませんが,まずは役目を終えられてホッとしています.日本の公的保険はききませんし,滞在費を含め多額の出費だったと思いますが,病院のスタッフみんなに感謝しながら退院されました.私としては,大きな手術を無事終えることができ,日本の医療者の1人として少しは誇らしくもありますが,いくつかの課題も見えてきました.おそらく今回携わった医師,スタッフ,みんながそうだと思います.「より良い医療を提供できるよう今後も頑張らなくては」と気持ちを新たにした次第です.

 

文責 金谷(外科顧問)